KIGの古田です。以前、3回にわたって、統計学の考え方を述べてきました。今回から統計学的な思考で、現実に横たわる問題を考えてみます。

統計学は、確率論に基づいて、ある事象の起こりやすさを検討していく学問です。その観点から、ものごとを統計学的に考えるということは、実質、確率論的に考えるということと、ほとんど同じです。そこで、ある論点を確率論的に考えるとどうなるかを述べていきます。

スマホアプリでゲームを趣味とされるかたはご存知だと思いますが、スマホアプリのゲームというのは、ゲーム自体は無料でプレイできます。一方、実際の現金を使ってゲーム内でくじ引き(一般的にガチャと言われています、以下このくじ引きをガチャと書きます)をすることで、ゲームを進めるにあたって有利なアイテムを入手することも可能となっております。実は、スマホアプリのゲームの多くは、ある程度ゲームを進めて行くと、ガチャを行ってアイテムを入手しないと、その先に行けなくなるように作られています。そして、ゲーム開発業者にとってこのガチャの課金が収益となるわけです。

このガチャの値段が、非常に高いのです。例えば、ゲーム会社大手であるスクエア・エニックスが提供しているスマホアプリ「星のドラゴンクエスト」において、1回ガチャを引くために必要な金額は概ね300円です。概ねという理由は、ガチャを引くために必要な仮想通貨の価格がキャンペーンで変動することがあるためです。

ガチャすなわちくじ引きである以上、この300円を払っても、希望するアイテムが手に入るわけではありません。欲しいアイテムが手に入るまでガチャを行うプレーヤーもおり、数万円以上課金するプレーヤーも多くいます。だからこそ、スマホアプリはヒットすると多額の利益が見込めるのです。一方、プレーヤー側は、何万円、何十万円と課金しても、ほしいアイテムが手に入らない事態に陥り、時に、ゲーム開始業者に対して訴訟を起こすまでに至ります。そして、訴訟の争点となるのが、あるアイテム群に関する出現確率についての、プレーヤーとゲーム開発業者の見解の相違なのです。

例えば、上記の「星のドラゴンクエスト」のアイテム出現率はどうなっているかというと、最高ランクのアイテム群の出現確率は概ね7%です。7%と聞くと、多くの人は、100回ガチャを引けば、最高ランクのアイテムが7個は手に入ると考えます。しかし、確率論的には、この考えが間違いなのです。

あるアイテムの出現確率が7%というのは、ガチャを何千回、何万回と非常に多くの回数を行った結果、あるアイテムの出現が7%付近に収斂するという意味です。100回程度で7%に収斂しないのは、むしろ当たり前です。実際に100回ガチャを行うと3万円程度かかるので、非常に多い回数と思いがちですが、確率論的に100回は決して多くありません。

さらに確率論的に考えると、出現確率7%でアイテム群が手に入るガチャを100回行ったとして、きっかり7個手に入る確率は、実は14.9%しかありません。さらに7個以下しか手に入らない確率は、実に59.8%です。つまり、出現確率7%で100回ガチャを行なったにもかかわらず、目当てのアイテム群が3個しか手に入らなかったとしても、何ら不思議ではないのです。そして、この事実をもって、ゲーム開発業者が確率を不当に操作しているとは言えないのです。

となると問題は、ゲーム開発業者が見えないところで不当に確率操作を行っているかということですが、これは次回検討したいと思います。